寒さが来たので冬の味覚フグの話でもしようと思う、と言うのもこの度京都の観光をしてきたからで、観光タクシーに乗ってあちこち回る途中に「あそこが歌舞伎の南座です」と告げられて、その言葉で思い出したことが有ったのだ。
※ 雨の夜に通った南座の前でタクシーを止めて写真を撮った、東京の東銀座の歌舞伎座とたたずまいはほぼ同じに見える
私に歌舞伎を見るという趣味は無い、ここを見て別のエピソードを思い出した、昭和50年11月16日南座で出演中の人間国宝坂東三津五郎さんが、フグの中毒で死亡すると言う日本中のファンを驚かすニュースがながれた。
三津五郎さんはフグが好きだったという、いわば「フグ通」と言っていいだろう、いつも食べなれたフグを恐らく何のためらいもなく食べたのだと思うが、なぜかその日は死に至る中毒を起こしてしまった。
巷に流れていた話ではトラフグの肝臓を4人前食べたと伝えられていた、そんなに食べれば危ないとは誰でも思うことだが、通としてフグを知る三津五郎さんとなると余計になぜだろうと疑問に思ってしまう。
フグの怖さは同じ網に入った同じ種だとしても、個体ごとに毒の強さに大きな差があることで、調理する者がそれを知る術は無いと言うところだろう。
この話にはまだ続きがあって、同席して同じものを食べた3人が中毒をしなかったと言うおまけが付いていたからややこしくなった、フグを出した寿司屋に責任があるとされたのだが、4人のうち一人だけが中毒したのだから原因は他に有ると訴訟になったらしい。
※ これがフグの王様トラフグ、全長80cmにも達する大物もいる,庄内沖にも多数生息しており専門に獲るはえ縄の漁師もい
ここまでは噂として知っていたが有る時車を運転中に、ラジオでまさにその事件について話していた、4人前の肝臓とされていたのは1,6cm角の肝臓4個というのが本当のところだった。
※ 紅葉の京都は観光客であふれている、一番人気はこの清水寺と聞いた、平日でもごった返していた
というと親指の先ほどの塊を4個食べたということになる、今ではフグの肝臓は食べてはいけないと食品衛生法で決められているが、当時はまだ危ないとは心配しつつも普通に食べられていたのだ。
フグの調理に精通した職人が作ったトラフグの肝臓は、毒抜きがされて中毒はしないと信じられていた時代だった、どんなに洗っても血抜きをしても煮ても焼いても毒は減らず変化する事も無いことは今では良く理解されているが、昔はのんびりしていたというか大らかだったなーと思う。
訴訟になって困った国が大学に依頼して調べた結果、同じ肝臓でも部位によって毒の強さが「著しく差がある場合が有る」ということが分かって、やはり寿司屋の責任だと言うことになった。
今は種類ごとにフグの毒の強さが分かっていて、細かく血液や、皮膚、肝臓、卵巣、精巣など、どこにどれだけの毒があるのか知ることが出来る、不安を持たずに冬の味覚を堪能することが出来る。
釣り好きな素人にお勧めしたいのは頭も、皮膚も内臓も取り去り肉のみ食べると言う事だ、此れなら腹が破れるほど食べても中毒する心配はない。
この事件を知ってから京都の南座とはいったいどんなところか気になっていたのだが、思いがけなく目の当たりにする事が出来た、金閣寺も、清水寺(きよみずでら)も、嵐山もみな良かった良い旅だった。
※ 昔ながらの狭い路地には人力車が行き交っていた、祇園に行く途中に有った昔ながらの風情をたたえた町屋
私は山形県がフグの調理師講習をするようになった昭和61年以来25年も講師を務めた、難しい話はしたことが無い種類ごとに面白くも可笑しいエピソードを語り、時間が来たらおしまいにしていた、どんな話にも言えることだが楽しくなければ聞く者の記憶として残らないと言うことだ。
幸いフグには毒というキーワードが有って、昔から多くの迷信やらでき事がいくらでも有った、半分こじつけの様にして種類ごとに語って聞かせた、坂東三津五郎さんの話はその中の一つだった。
ここまで書くともっと多くの面白おかしい出来事を書き足したい気も起きるが、この辺でお仕舞にするのが切りが良いようだ、、、、別の機会に続きを書くチャンスもあるだろう。
2015,11,28