先日、テレビタックルでお馴染みの江口ともみさんが、TBSの別の番組の収録に来てくれた。あの番組は私も好きで良く見ている。いつもいい大人たちが興奮して怒鳴り合いになる、本当はそう見えるだけでおそらくは事前に打ち合わせをして、ゆるい約束が有ってのやり取りであろうが、口角泡を飛ばしながらの口論は思わず引き込まれて面白い。
わざわざ東京からやって来たTBSの関心は、この50年になろうとしている古い小さな水族館が、意外や意外、中に入れば世界一のものが有る。この意表を突いた組み合わせにあるらしい。
確かに入ったところは薄暗い雰囲気だし、昔懐かしい汽車窓式の水槽が並んでレトロな感じがしている。天井を見れば何やら雨漏りらしい跡も見える。
普通に見れば世界一どころか倒産の心配さえ浮かぶみすぼらしさだ。しかしここが生き残りのためにした世界一のクラゲ展示と、それを広く知らしめるための取組みを知ると皆さんが面白いと笑顔になる。
それはそうであろう。売店には堂々と「クラゲ入り饅頭、羊羹」が売られているし、その先にあるレストランには「クラゲレストラン」の看板がぶら下がっている。これをやるには並みではない度胸が居るのだ。
レストランにはクラゲの入った面白い料理が並んでクラゲ入りのコーヒーさえあるのだ。一つ一つの料理に思い入れが有って、出来たときにはマスコミさんが大勢来て報道してくれた。地元だけではない東京から来るテレビ局さんも必ず目を輝かして取材してくれた。
パンツまで脱いだ素っ裸であぐらをかいて、「どうでもしやがれ」と居直ったような加茂水族館の破天荒の取り組みは、マスコミさんだけではなくどなたが知っても興味がわくらしい。
去年の1月だったが、県内の警察署と名乗る電話が有った。悪い事をしている訳ではないが、矢張り警察と聞くと身構えてしまう。
何事だろうと心配したが「館長さんに講演をお願いしたい」という。そのぐらいの用だったら何とかなる。「私で良いなら行きましょう」と答えてしまった。
当日はそこの地区のお巡りさんがほとんど集合していたと見えて、その数ざっと100人という所か、きちんと制服を着た集団は迫力が有る。誰かの号令に合わせて靴音を響かせて一斉に礼をして席に着いた。
いつも私の話は決まっている。評論家でもないので相手に合わせた臨機応変の話など出来るわけがない。長い歴史の中に起こる波乱の運命とどん底を迎えた暗い日々、そしてクラゲに出会ってからの奇跡の回復。
見事な離れ業をやってのけたあっぱれいい男を目の前に再現する。「いいか頭がよくて、勉強ができるからと言って立派な人間にはなれないぞ。」「その人の能力はほとんど子供のころに決まってしまうものだ。」
「あなた方が子供に戻れるなら勉強は半分でいい、あとの半分は好きな事をとことんやれ。」そしてもう一つある「何だかわかるか・・・それはなー悪い事をしろ・・・」
悪い事も出来ない奴は立派な人にはなれないんだ・・・と言って顔を上げたら、目の前には制服の警官が席をうずめていた。そうだった今日はお巡りさんの前で話していたんだと気が付いた。途端に次の言葉が出てこなかった。
小さな声で「いや済みません、今の言葉は取り消します・・・」と言わざるを得なかった。